Episode.2

家族としては、ただ悲しいだけではなく、何か違う道が開けたような感覚でした。

ドナー家族の手記

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「黄色い意思表示カード、 これは父から家族への最後の プレゼントだったと思います。」

私が小さいころの父のイメージは、とにかく元気な人でした。
一緒に海に行ったり、キャンプに行ったり、冬はスキーを一緒にしていました。父は釣りやゴルフなどが
好きで、家で釣りの準備をしたり、ゴルフに出かける姿をよく見ていました。

そんな父が、私が中学3年生の時に心筋梗塞で突然倒れました。
夏のある日の夜、私は祖母に起こされ病院へ行きました。約1時間の心肺蘇生の後、
父の心拍は再開しました。次の日、父は集中治療を受けるため、別の病院へ転院しました。
そこで、初めてちゃんと父の姿を見ました。たくさんの管につながれた父を見て、
トイレで泣いたことを覚えています。いつも見ていた父と全く違う姿に衝撃を受け
、 父が死んでしまうのではないかと、その状況をよく理解できないでいたと思います。

3日ほどたったとき、私と兄は母から病状について説明を聞きました。
「お父さん、ダメかもしれない。先生から、心臓は動いているけど、
心臓が止まってた時間が長くて脳に酸素がいかず、
脳が死んでしまっている状態だと…いつ亡くなるかわからないんだって。」
この話を聞いたときは、ショックではありましたが、すっと受け入れられた記憶があります。

同時に母から、「それでね、お父さんが臓器提供の意思表示カードを持ってたの。
よければ専門の人から話を聞いてみないかって言われたけど、どうしよう。」と言われました。

その時、私と兄は迷わず「臓器提供したらいいじゃん。」と言いました。
亡くなることが分かっている以上、
使える臓器を使わないのはもったいないという子供の考えでした。

数日後、家族と親戚みんなで、移植コーディネーターの話を聞きました。
約2時間の説明を聞いたあと、しばらく誰も言葉を発せませんでした。

長い沈黙のあと、「使ってください。」

言ったのは、父の実母である祖母でした。その一声から、
全員一致で父の臓器提供が決まりました。
父の意思表示カードには全部○がついていましたが、
医学的理由から脳死下ではなく心停止下の提供となりました。
提供が決まってからは、最期の時間を過ごすことができました。
病室で父の好きな音楽をかけ、手にゴルフクラブを持たせていました。
母は、父の洗髪や手浴もしていたそうです。
父が亡くなるまで友人、知人の方にも会うことができました。
父が亡くなり、腎臓と角膜が4人の方に移植されました。
父が亡くなったときは悲しかったですが、移植コーディネーターの方から
移植が終わったことや、レシピエントの方の状況を聞くことで、
どこかで父が生きているような気持ちになりました。
また、レシピエントの方からいただいたサンクスレターには、
今まで長い期間透析をしてつらかったこと、移植を受けることができて
とても嬉しく思っていることが書かれていました。
その手紙を見て、臓器移植ってすごい事なんだと実感しました。

「看護師となった今の私があるのは、父の臓器提供があったからです。」

高校生になり、臓器移植について調べる機会がありました。そこで驚いたのは、
移植を希望する人に比べて、提供する人がとても少ないということです。

なぜこんなに少ないのか、と移植コーディネーターの方に聞いたところ、
脳死になるのは全死亡者の1%しかいないこと、意思表示カードを持っていない人が多いことなど、
様々な理由から提供までいたらないことが多いことを聞きました。

私は、父が臓器提供できて良かったと思っています。家族としては、
ただ悲しいだけではなく、何か違う道が開けたような感覚でした。
そこで、私は自分の経験から臓器移植についてみんなに知ってもらいたい、
家族に寄り添えるような仕事がしたいと思うようになりました。
ドナーファミリーから移植コーディネーターになった人はいないという話を聞き、
それなら自分がという考えもありました。

移植コーディネーターになっている人は看護師が多いということがわかったので、
まずは看護師として経験を積み、移植コーディネーターを目指すことにしました。

今は、看護師として働きながら、終末期の家族看護について勉強しています。
また、移植医療について知ってもらいたいと思い、啓発活動を行っています。

父の臓器提供を決めた日は母の誕生日でした。
母は「なんで誕生日にこんなつらい思いをしないといけないんだ。」と言っていましたが、
現在は臓器提供できたことで、家族みんなが良かったと思い、生活しています。
今の私があるのは、父の臓器提供があったからです。
黄色い意思表示カード、これは父から家族への最後のプレゼントだったと思います。

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